制限酵素の投与法 ―ティーナとマルチナの場合―

「DESIRE 〜背徳の螺旋〜」を解きほぐす


I. “DESIRE”の物語構成

DESIREにおける最大の特徴の一つであるマルチサイトシステムとは、主人公を複数設定し、同じ出来事を彼/彼女らの異なる視点―これがマルチサイトの文字どおりの意味である―から描きだしてストーリーとするものであり、1994年当時流行していた、単独の主人公の行動如何によって結果が変化するマルチエンディングとは一線を画す、ストーリーテリングなシステムである。

ゲームを始めるとプレイヤーには、アルバート・マクドガルを主人公とするシナリオ(以下、アル編)と、マコト・イズミを主人公とするシナリオ(以下、マコト編)の二つの選択肢が与えられる。プレイヤーが二つのシナリオのどちらから始めるかは自由であり、一般的には片方のシナリオを結末までプレイし終ってから、他方のシナリオをプレイするのだが、途中で中断してもう一方のシナリオをプレイするのもまた自由である。しかし、DESIRE全体を一つの物語として楽しむならば、最初にアル編を最後までプレイし、その後にマコト編をプレイしたほうがよいというのが衆目の一致した見方である。

あらすじ(アル編を中心に)

物語は、アル編はアルがDESIREへ向かう機上から、マコト編がそのしばらく前から始まる。SNT(ソーシャル・ニューズ・タイム)社の記者アルバート・マクドガルは、謎の研究施設DESIREへの取材を玉砕覚悟で申し入れ、なぜか許可される。その彼の恋人であるマコト・イズミはDESIREの技術主任として研究の先行きに危険を感じ、総監督であるマルチナ・ステラドビッチ教授に研究の中止を進言するも聞き入れられず、その場でアルのDESIRE来訪を告げられる。

DESIREに到着したアルは島内散策中に浜辺で名前以外の記憶を失った少女ティーナと出会う。なぜか初対面のアルになつくティーナ。体調が心配なティーナを整備士シルビアに預け、マコトの代わりに迎えにきたレイコとともに研究所へ向かったアルは、予想とは裏腹ににこやかに出迎えてくれたマルチナとの対面を果たす。「取材は翌日」ということで、持ち前の好奇心を止められないアルは、マルチナの部屋で密かに情報を収集するのであった。

いよいよ、マルチナへの取材を敢行するアルであったが、グランチェスタ財団からのオブザーバーであるカズミに再三横槍を入れられる。しかし、マルチナはプライベートな話題に関してのアルの問いかけに、研究に対する異常なまでの熱意を語るのであった。アルは取材を終えると、マコトのサポートをしている研究所職員のシェリルとティーナを連れて、約束の海へ出かける。しかし、カズミに凄まじい剣幕で遊泳禁止を知らされる。その夜に起こった職員クリスの変貌とともにアルは何かを感じる。

翌日、研究所内での写真撮影中、なぜかマルチナはカズミが止めるのも聞かずに研究が兵器応用に向かっていることを話し始める。これもまた非常な謎だ。その夜、アルが情報を漏らしてもらうために出向いた格納庫では、カズミとシルビアが何者かに襲われ倒れていた。しかも、現場には今にも爆発しそうな爆弾が。アルはなんとかしてシルビアを助けるが、腹を切り裂かれていたカズミは亡くなってしまう。状況は最悪だ。アルは犯人の疑いをかけられ、自室に軟禁されてしまう。

このままでは危ないと見たアルは部屋から脱走しようとするが、そこへマコトがやってきて、犯人がレイコであったこと、そしてレイコが死んだことを知らされる。さらわれたティーナを探すアルは、生きていたレイコを追って研究所まで来るが、そこで目にしたものは、醜く姿を変えたレイコを射殺したマコトの姿だった。アルはその時ティーナの声を耳にし、ドーム内でマルチナに連れられたティーナと再会する。マルチナを責めるアルの前にゲーツが現われ、マルチナは装置の中に落ちてしまう。ゲーツは死んだはずのマルチナの夫グスタフだったのだ。そしてアルとティーナも装置に落ちていく、しっかり手を繋ぎながら。

アルは誰もいないDESIREで目を覚ます。方々を探した末にようやく浜辺で出会えたのはティーナであった。それから6年、ティーナと二人きりで過ごすアルは、ある日ティーナがどこからかみつけてきたカメラで二人写真を撮る。翌日、日課の読書に行ったティーナは何か様子が変だった。その翌朝、轟音とともに研究所に雷が落ちる、なぜか研究所が動いているのだ。その中を調べる二人の前に突如グスタフが現われる。逃げる二人。だが、ティーナはアルを装置内に送り出し、自らは外に残る。外では銃声が、そして開くドア…。

アルはマコトと再会するも、ティーナは行方不明だった。しかもDESIREはあれから全然時間が経っていないという。暴走していた装置は収束し、アルとマコト、シェリル、シルビアは助かったのであった。その後、マコトとは疎遠になってしまったアルであるが、今日も世界中を飛び回りティーナを探し続ける。二人で撮った『写真』を胸にして。

いよいよ物語の核心へ

そして、アル編・マコト編の両シナリオをクリアすると、これまでは存在しなかったシナリオが選択可能になる。このシナリオは、これまでのアルとマコトの物語をマルチナの視点で語ったものである。この、最後のシナリオであるマルチナ編をプレイすることで、物語の真の主人公がマルチナであったことが明らかにされると共に、マルチナの背負った永遠の運命―このことがサブタイトルである“背徳の螺旋”の意味するところである―がプレイヤーの前に示されて物語は終るのである。


前頁 Abstract/次頁 II. 3つのシナリオにおける時空に関するイベントの詳細


刈山純也 (なっきー)